国立研究開発法人物質・材料研究機構
最先端材料科学研究: 材料科学のニューフロンティア:2.5次元物質
人工知能(AI)、エレクトロニクス、自動車、エネルギー分野などへの応用が期待される2.5次元物質
Science and Technology of Advanced Materials誌 プレスリリース
配信元:国立研究開発法人 物質・材料研究機構 (NIMS)・〒305-0047 茨城県つくば
Date: 11 May 2022
最先端材料科学研究: 材料科学のニューフロンティア:2.5次元物質
(Tsukuba 11 May 2022) 人工知能(AI)、エレクトロニクス、自動車、エネルギー分野などへの応用が期待される2.5次元物質
2021年度から文部科学省の支援により「2.5次元物質科学」プロジェクトが始まる
論文情報
著者:Hiroki Ago*, Susumu Okada, Yasumitsu Miyata, Kazunari Matsuda, Mikito Koshino, Kosei Ueno and Kosuke Nagashio
* Global Innovation Center, Kyushu University, Fukuoka 816-8580, Japan (E-mail: ago.hiroki.974@m.kyushu-u.ac.jp)
引用:Science and Technology of Advanced Materials Vol. 23 (2022) p. 275
本誌リンク https://doi.org/10.1080/14686996.2022.2062576(オープンアクセス)
グラフェンなどの二次元物質を、ファンデアワールス(vdW)力のみで人工的に積層すると、化学結合や格子整合に制限されない新しい物質群が合成できる可能性が開ける。これらの物質は、二次元物質と三次元物質の間の、いわば「2.5次元物質」というユニークな視点でとらえることができる。この新たな物質群は特徴ある物理的性質を示すことから、今後、人工知能(AI)、エレクトロニクス、自動車、エネルギー分野など幅広く活用されると期待される。
Science and Technology of Advanced Materialsに掲載された、九州大学の吾郷浩樹主幹教授をはじめとする日本の研究者らによる解説論文 Science of 2.5 dimensional materials: paradigm shift of materials science toward future social innovation が、「2.5次元物質」という新たな研究分野の提案と、その学術的重要性や最新の研究動向、そして幅広い応用の可能性について紹介している。
2004年に炭素からなる単原子シートである二次元物質「グラフェン」が発見されて以降、遷移金属カルコゲナイド(TMDC)、六方晶窒化ホウ素(hBN)、シリセンと呼ばれる単元素膜、など多くの二次元物質が見出され、それらの特徴ある物理的性質が明らかになるとともに、フレキシブルなタッチパネル、IC、センサーなどへの応用開発がなされてきた。最近、これらの二次元物質を、弱いvdW力を利用して人工的に積み重ねることができるようになってきた。共有結合やイオン結合などで制限された従来の結晶とは異なり、異なる組成の二次元物質を自在に積層することができ、角度までも制御して新たな物質を作り出すことができる。また、層と層の間にできるユニークな二次元ナノ空間を使った科学も展開できる。このように弱いvdW力を利用して、新たなサイエンスを展開するとともに、二次元物質を実社会(三次元)に応用展開する可能性も開ける。著者らは二次元物質が持つ多くの自由度を0.5次元と象徴的に表すことによって、これらの新たな物質群を「2.5次元物質」と呼び、従来とは一線を画す先進的な物質科学の研究が展開できるものと考えている。
グラフェン、MoS2やWS2などのTMDC、そしてhBNなどの二次元物質は一般的に化学気相成長法(CVD)と呼ばれる方法で基板表面に合成される。二層グラフェンは、最もシンプルな2.5次元物質とみなすことができるが、これは銅とニッケルの合金を触媒として成長させることができる(単層グラフェンは銅のみを触媒として合成される)。この二層グラフェンに垂直電場を印加すると、バンドギャップを開くことができ、電気伝導のオン、オフを制御することが可能となり、半導体トランジスタとして利用できる。なお、単層グラフェンはバンドギャップがないため、このようなことは起こらない。
2.5次元物質の積層の角度をずらすと、モアレ超格子と呼ばれる長周期構造が生ずる。このモアレパターンに依存してホスト物質のバンド構造は著しく変化する。例えば二層グラフェンの積層の角度を1°ずらすと、低温で超電導を示すようになる。別のモアレ超格子として、グラフェンとhBNによるヘテロ2.5次元物質がありグラフェンとhBNの格子定数は15nmだけ異なっているため、両者の積層は角度をずらさなくてもモアレパターンが発生し、異常な物理現象を示すようになる。モアレ超格子の発現はグラフェンに限らない。2つの単層TMDCを角度をずらして積層した2.5次元物質においてもモアレパターンが生じ、光励起すると、発生した局在励起子がモアレパターンにトラップされる。この現象は情報記憶媒体としての応用が期待される。さらに、ロボット集積技術を使えば、グラフェンとhBNを交互に積層した29層のヘテロ構造といったような複雑な構造をもつ新しい層状物質を作製することも可能になってくる。
さらに、グラファイト層間化合物と同様に、2.5次元物質の層間ナノスペースに分子やイオンなどを挿入し、ホスト物質の電気的、磁気的あるいは光学的性質を変化させるという研究も行われている。例えば、塩化鉄(FeCl3)を2層グラフェンの層間に挿入すると、ホストである2層グラフェンのシート抵抗が大幅に低下するとともに、グラフェンの層で守られることで、FeCl3の安定性も改善することが見出されている。また、Liイオンを挿入した2層グラフェンにおけるLiの拡散速度は、グラファイトに挿入されたLiのそれより、大きくなることが見出されていて、リチウムイオン電池の性能向上に期待がもたれている。さらに興味深いことに、塩化アルミニウム(AlCl3)を二層グラフェンに挿入した場合、層間のナノ空間内で、AlCl3は3種類の結晶構造をとり、そのいずれもバルクの結晶構造とは異なることが見出された。このように、二次元ナノ空間を用いることで、全く新しい物質の創製や特異的な物性の発現など物質科学に大きなインパクトを与えると考えられる。
吾郷は、「「2.5次元物質」という新たな視点に立って研究を推進することは、材料科学に大きな革新をもたらし、その成果は我々の将来の生活に強いインパクトを与えうる」と述べている。
文部科学省は、このような新たな視点に基づき、物質科学に変革をもたす共同研究プロジェクト「2.5次元物質科学:社会変革に向けた物質科学のパラダイムシフト」を2021年度から助成を始めている(2021年度学術変革領域研究(A))。このプロジェクトは、吾郷を領域代表者とし、5年間、11億円以上の研究費の支援を受け、40名以上の日本国内研究者を擁するオールジャパン体制で展開されている。
図の説明:異なる二次元物質を積層することでユニークな物性を示す2.5次元物質を創成することができ、量子デバイス、低消費エネルギーデバイス、太陽電池や二次電池などへの使用が可能になる。
参考情報
2.5次元物質科学領域ホームページ
論文情報
タイトル:Science of 2.5 dimensional materials: paradigm shift of materials science toward future social innovation
著者:Hiroki Ago*, Susumu Okada, Yasumitsu Miyata, Kazunari Matsuda, Mikito Koshino, Kosei Ueno and Kosuke Nagashio
* Global Innovation Center, Kyushu University, Fukuoka 816-8580, Japan (E-mail: ago.hiroki.974@m.kyushu-u.ac.jp)
引用:Science and Technology of Advanced Materials Vol. 23 (2022) p. 275
最終版公開日:2022年5月6日
本誌リンク https://doi.org/10.1080/14686996.2022.2062576(オープンアクセス)
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