プレスリリース

2022年11月8日 17時00分

独立行政法人国立高等専門学校機構

【鈴鹿高専】専攻科生が実験室用のバイオフィルムリアクターを開発、論文発表

科学

複数のバイオリアクター使用で広範なぬめり評価が可能に

独立行政法人国立高等専門学校機構 鈴鹿工業高等専門学校(三重県鈴鹿市 校長:竹茂 求 以下「鈴鹿高専」という。)の専攻科を卒業された百済彦成さんが兼松秀行教授の指導の下で行った特別研究の成果を学術誌Materials(出版社MDPI)に発表・掲載されました。ぬめりの原因として知られているバイオフィルムの発生を評価する上で新しいバイオリアクター(※1)を提案し、より一層ぬめりの発生原因の解明に役立つことが期待されます。

兼松特命教授と百済彦成さん兼松特命教授と百済彦成さん


概要と背景
 百済彦成さんは鈴鹿高専材料工学科で学び、2016年度〜2017年度に専攻科課程在籍時に兼松研究室で特別研究「実験室規模における各種バイオフィルムリアクターの開発とその比較評価」を行いました。今回の論文はこの専攻科時代の研究を論文化したものです。
 バイオフィルム評価法は、現在経済産業省の指導の下、抗菌製品技術協議会が主導する形で、国際規格化に向けた一大プロジェクトが進行しています。その点において、百済さんの研究成果は非常に時宜にかなったものと言うことができます。抗菌マーク(※2)・抗ウイルスマーク(※3)の認証主体として知られる抗菌製品技術協議会(SIAA)は、現在抗バイオフィルム製品の国際規格の制定に向けた努力を続けており、高専機構も鈴鹿高専の兼松秀行特命教授を中心にこの活動に協力しています。現在は、抗菌・抗ウイルス・抗バイオフィルム材料評価・開発プラットフォームを立ち上げ、GEAR5.0マテリアルユニット全体で取り組んでいるところです。


研究内容
 本研究では三つのタイプのバイオフィルムリアクターを提案しています。いずれも異なる水の流れの要素が入ったバイオフィルムリアクターで一長一短があり、それらが論文中で比較検討されています。(a)と(b)のリアクターは(c)に比べてバイオフィルムの形成が少し劣りますが、利便性に優れています。また、(c)のリアクターでは脂質に富んだフィルムが形成される一方で、(a)と(b)のリアクターではタンパク質を主たる構成分とするバイオフィルムが形成されます。この様に、用いるバイオリアクターによって異なるバイオフィルムが形成されることも明らかとなりました。また研究の中で、バイオフィルムの評価法としてラマン分光法による定性分析と定量分析にクリスタルバイオレットによる染色(※4)が用いられていますが、後者の方法は上記SIAAによる国際規格の採用される見込みです。

 

提案した三つのバイオフィルムリアクター:(a)stirrer-driven rotary biofilm reactor; (b) rotating-platform-driven biofilm reactor; (c) closed-loop 提案した三つのバイオフィルムリアクター:(a)stirrer-driven rotary biofilm reactor; (b) rotating-platform-driven biofilm reactor; (c) closed-loop


著者名
百済彦成、兼松秀行、幸後健、河合里紗、小川亜希子、平井信充 (鈴鹿高専)
加藤岳仁 (小山高専)
三浦英和 (鈴鹿医療科学大学)
吉武 道子 (物質・材料研究機構)
Barry D.M. (米国Clarkson大学)


発表論文URL: https://www.mdpi.com/1996-1944/15/13/4691
GEAR5.0マテリアルURL: https://www.suzuka-ct.ac.jp/gear-materials/

 
用語解説
バイオフィルムとは
 バイオフィルムは、微生物と微生物が産生する細胞外高分子物質(多糖類やタンパク質など)の集合体であり、一般的には流し台の排水溝等に発生する“ぬめり”として知られています。水があればどこにでも発生し、環境・衛生に影響を与え、また、材料腐食などの原因にもなり得ます。

(※1)バイオリアクター
 バイオリアクターとは材料のぬめり、汚れ、腐食可能性、衛生低下の程度を評価するために、人工的・加速的に、再現性よく、環境中に存在する常在菌を使ってバイオフィルムを材料表面に形成させる装置です。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000141.000075419.html

(※2)抗菌マーク・(※3)抗ウイルスマーク
様々な水回りの製品の品質を保証するマークです。

(※4)バイオフィルムのラマン分光法による定性分析とクリスタルバイオレットによる定量法
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000171.000075419.html



百済彦成さんの学生時代と現在
 百済彦成さんは、バイオフィルムの研究に強く惹かれて英語の論文を読みふける高専生時代を送りました。また、研究を進める上で英語学習の必要性を感じた百済さんは、TOEICでは900点近い高得点を取得しています。
 次第に医学に強い関心を抱くようになった百済さんは、香川大学医学部に編入し、現在同大学で医学の勉強を続けています。


 
【鈴鹿工業高等専門学校について】
 鈴鹿工業高等専門学校は、全国12の国立高専一期校のひとつとして1962年に設立されて以来、約10,000人の卒業生を輩出しており、その多くが技術者や研究者あるいは企業家として社会で活躍し、産業界から高い評価を受けています。1993年には、さらに2年間の高度な専門教育を実施する専攻科を設置し、国際社会で活躍できる創造性豊かなエンジニアの育成に努めています。また、鈴鹿高専テクノプラザをはじめとして地域社会と密接に連携した教育研究を推進することにより産業振興に努めています。
 

 



【学校概要】
学校名:独立行政法人国立高等専門学校機構 鈴鹿工業高等専門学校
所在地:三重県鈴鹿市白子町
校長名:竹茂 求
設立:1962年
URL:https://www.suzuka-ct.ac.jp/
事業内容:高等専門学校・高等教育機関

 

【本リリースに関するお問い合わせ先】
独立行政法人国立高等専門学校機構鈴鹿工業高等専門学校
総務課総務企画係EL:059-368-1717(平日8:30-17:00)
e-mail:chiiki@jim.suzuka-ct.ac.jp

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