プレスリリース

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2021年3月30日 15時55分

国立研究開発法人物質・材料研究機構

最先端材料科学研究: ホイスラー合金:次世代スピントロニクス材料

科学

完全スピン偏極強磁性体(ハーフメタル)ホイスラー合金でスピン流を制御する

Science and Technology of Advanced Materials誌 プレスリリース

 

配信元:国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)・〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1

Date: 30 March 2021

 

最先端材料科学研究: ホイスラー合金:次世代スピントロニクス材料

 

(Tsukuba 30 March ) 完全スピン偏極強磁性体(ハーフメタル)ホイスラー合金でスピン流を制御する

 

論文情報

タイトル:Heusler alloys for spintronic devices: review on recent development and future perspectives

著者:Kelvin Elphick, William Frost, Marjan Samiepour, Takahide Kubota, Koki Takanashi, Sukegawa Hiroaki, Seiji Mitani & Atsufumi Hirohata*

* Department of Electronic Engineering, University of York, York YO10 5DD, United Kingdom (E-mail: atsufumi.hirohata@york.ac.uk)

引用:Science and Technology of Advanced Materials Vol. 22 (2021) p. 235

最終版公開日:2021年3月29日

本誌リンクhttps://doi.org/10.1080/14686996.2020.1812364(オープンアクセス)

 

ハーフメタルホイスラー合金は、これからのスピントロニクス素子開発の主要材料として期待されている。このレビュー論文は、今日までのホイスラー合金研究の主要な成果を解説していて、この分野の研究者にとっては必読と言えるであろう。

 

 スピントロニクスは、従来のエレクトロニクスが電子の電荷の流れを利用するのに対し、電子の持つスピンの性質を利用するエレクトロニクス分野で、ハードディスク用の磁気読み出しヘッドや、磁気抵抗メモリ(MRAM)などに応用されている。利点は、少ない消費電力や記録密度の向上などである。ハーフメタルは、スピン分極率が100%、すなわち、全ての伝導電子のスピンの向きが1方向に揃った材料で、一部のホイスラー合金がハーフメタルになる。なお、ハーフメタルは半金属(semimetal)とは異なる。半金属は、伝導帯の下部と価電子帯の上部がフェルミ準位をまたいでわずかに重なり合ったバンド構造を有し、少量の電子と正孔が同時に存在することで金属的な伝導性を示す物質である。

 

Science and Technology of Advanced Materialsに、イギリス、ヨーク大学、廣畑貴文ら、日本、東北大学、高梨弘毅ら、物材機構、三谷誠司らが共著発表したレビュー論文 Hustler alloys for spintronic devices: review on recent development and future perspectives は、今日までのホイスラー合金研究の主要な成果を纏めて紹介している。

 

 ホイスラー合金は、C1b構造をとるXYZと表記されるハーフホイスラー合金と、L21構造のX2YZと表記されるフルホイスラー合金がある。ここでXおよびYは遷移金属、Zは半導体または非磁性金属である。2章で、両者について、理論、実験の両面から議論される。3章で、強磁性ホイスラー合金の基本的な性質が、4章で、室温でハーフメタルであることを証明するために行う構造的または磁性的な原子スケールでのキャラクタリゼーションが紹介される。5章では、強磁性ホイスラー合金薄膜を用いたスピントロニクス素子における効率的な非磁性材料へのスピン注入と大きな磁気抵抗が議論される。6章では、反強磁性ホイスラー合金の基本的な性質が議論され、7章で、原子スケールでの構造および磁性キャラクタリゼーション法が示される。8章で、反強磁性ホイスラー合金薄膜の応用が紹介され、9章では、他の非磁性ホイスラー合金が示されている。

 

 ホイスラー合金は、構成する遷移金属のXおよびYがいずれも強磁性を示さず、またZは半導体または非磁性金属であるにもかかわらず、合金を形成すると強磁性を示すようになることが発見されてから幅広く研究が進められてきた。ホイスラー合金をスピントロニクス素子とする利点は、結晶構造を制御することで電子スピンバンド構造を変化させ、その電子的、磁性的特性を制御できることにある。しかし、ホイスラー合金の規則化温度は、バルクで1000 K以上、薄膜でも650 K以上とかなり高い温度を必要とし、応用上この温度を下げることが求められている。

 近年、ホイスラー合金薄膜を格子不整合のない基板材料上に室温で成膜することが試みられていて、両者の相互作用により、ホイスラー合金がハーフメタルになる。そこでは、一方向のスピンを持つ電子のみが伝導に寄与し、理想的なスピン電池となり得る。

 ホイスラー合金の評価には、直接的にはX線回折で原子構造を解析し、電子顕微鏡観察も用いられる。間接的には、電気抵抗の温度変化を測ることが行われ、温度を変化させての磁化測定や軟X線を用いた分光など様々な磁気的評価方法も用いられている。

 

 著者らは現在、ホイスラー合金を用いた磁気トンネル接合を研究している 。このトンネル接合はトンネル障壁となる薄い絶縁体を二つの強磁性体が挟んだ構造を持つ。絶縁体層が十分薄ければ、量子トンネル効果により、 電子は強磁性体間を流れることができる。外部磁場などが印加されて強磁性層が平行な磁化状態を有する場合は電気抵抗は小さいが、外部磁場が取り除かれるなどして反平行状態になると高抵抗になる。

 著者らは、ホイスラー合金による磁気トンネル接合素子が、現在用いられているメモリー素子や磁気センサーを置き換えるようになることを期待している。特に、磁気トンネル接合の室温磁気抵抗を現在値より大幅に高くしたものを開発したい、としている。さらに強磁性以外のホイスラー合金も用いた新たなスピントロニクス素子も積極的に提案していきたい。

図の説明:電子の電荷ではなく、電子スピンを利用する研究、すなわち、スピントロ二クスにおいては、固体素子における情報のやりとりにスピン電池が必要である。

 

論文情報

タイトル:Heusler alloys for spintronic devices: review on recent development and future perspectives

著者:Kelvin Elphick, William Frost, Marjan Samiepour, Takahide Kubota, Koki Takanashi, Sukegawa Hiroaki, Seiji Mitani & Atsufumi Hirohata*

* Department of Electronic Engineering, University of York, York YO10 5DD, United Kingdom (E-mail: atsufumi.hirohata@york.ac.uk)

引用:Science and Technology of Advanced Materials Vol. 22 (2021) p. 235

 

最終版公開日:2021年3月29日

本誌リンクhttps://doi.org/10.1080/14686996.2020.1812364(オープンアクセス)

 

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